こんな人におすすめ
- 架空戦記・異世界ものに抵抗がない
- 近現代史に興味がある
- スパイ活劇・謀略モノが好き
- P.K.ディックとリドリー・スコット。この2人の名前の他に理由はいらない、という人
こんな人にはNG
- 第二次世界大戦から冷戦期についての事はよく知らない
- 洋画に “変な日本” が出てくるのが許せない
- 旭日旗を見ると癇癪を起こす国の人
登場人物
ジュリアナ・クレイン(右)と恋人のフランク・フリンク(左)
ジュリアナは合気道を習っている。物語の中で活かされる場面は出てくるのだろうか?
中立地帯でジュリアナと出会ったジョー・ブレイク(右)
父の意思を受け継ぎレジスタンスに志願する。
その二人を狂犬のように追跡するナチス工作員。
フランクの友人、エド・マッカーシー。一見、ひ弱そうに見えるが芯の強い青年。
ジョン・W・スミス(左)。大ナチス帝国の親衛隊大将。
頭は切れるし銃撃戦もめっぽう強い。
通商大臣の田上信輔。日本側のキーマンの一人。
憲兵隊の木戸。残虐だが組織と職務に命を投げ出す自己犠牲の精神を持つこのキャラクターは、アメリカ人が日本人に抱いてる良い点と悪い点の両方のステレオタイプを具現化しているとも言える。
あらすじ
第二次世界大戦で枢軸国(日本、ドイツ)が勝ち連合国(米英仏ソ中)が負けた架空の世界の1960年代が舞台。
アメリカ合衆国は日本が支配する日本太平洋合衆国、ドイツが支配する大ナチス帝国、そして緩衝地帯としての中立地帯の3つに分割統治されていた。
日本側の描写が明らかにドイツ側より安っぽいのだが、そこは我慢しよう・・。
アメリカ人は弾圧され自由の無い暮らしを送っている。
日本太平洋合衆国サンフランシスコの平凡な市民だったジュリアナは、憲兵隊に追われていた異父妹・トゥルーディから彼女が殺される直前に映画フィルム「イナゴ身重く横たわる」を預かる。
そこには “連合国が勝っていた歴史” が写されていた。ベルリン陥落、引きずり下ろされるハーケンクロイツ旗、戦艦ミズーリ艦上での日本の降伏調印式、自由を謳歌する60年代のアメリカ市民・・・。
ジュリアナは妹の意志を継いで単身、フィルムの謎を追って“高い城の男”のいる中立地帯に向かうのであった。
大ナチス帝国ニューヨーク市でレジスタンスに志願した青年ジョーも、任務のために中立地帯へと向かう。
一方、田上は緊張状態にある日独の戦争回避のために動き出す。
運命に抗う歯車たち
原作はSF作家の巨匠、P.K.ディック。
「ブレードランナー」「トータルリコール」「マイノリティ・リポート」の原作者と言えば映画ファンならわかるだろうか。
しかし本作は原作をかなり脚色してエンタメ寄りに改変している。
原作は、文学作品にはよくあることだが、物語が結末らしい結末を迎える前に唐突に終わってしまう。
ドラマではどのような結末にするのか非常に興味あるところだ。
物語は平凡なアメリカ市民だったジュリアナとその恋人フランク、大ナチス帝国側、そして日本太平洋合衆国側の3つのパートから成り立ち、物語が進むにつれて互いに絡み合っていく。
男女の恋愛関係やご都合主義的とも言える偶然の出会い等が少し目に付き、良くも悪くも連続ドラマらしい俗っぽさがあるものの、第1話の最後の場面でまさかの展開を見せつけられた時にドラマの方向性を知ることとなり、期待値もあがるのでは無いだろうか。雑な部分はあるものの、ついつい引き込まれて続きを観たくなってしまうドラマだ。
良くない点として、ヒロインのジュリアナとその恋人フランクの行動に一貫性が無く、その場の感情と勢いだけで行動しては周囲の者を危険に晒しているので、観ていてイライラする。アメリカの映画・ドラマによく出てくるお馬鹿なヒロインそのままだと言っていい(イライラさせるのも脚本テクニックの1つかもしれないが)。
一方で、敵側であるナチスと日本側の人間は自らの信条に従って一貫した行動原理を保っており、日本側は変な設定・考証はあるものの、観ていてストレスが溜まらない。いやむしろ、敵の側だと知りつつも男惚れしてしまう。
特にスミス親衛隊大将。敵なのに格好良すぎるのだ。アメリカ軍人だった経歴を持つ彼は、今は大ナチス帝国とヒトラーに完全なる忠誠を誓っている。そのため、レジスタンスへの拷問は朝飯前、必要とあらば市民の殺害も厭わない。
序盤で視聴者は 「こいつが憎きラスボスか」 と思うことだろう。しかしシーズン後半あたりになるといつのまにか彼のファンになっていることに気がつくはずだ。
詳しくはネタバレになるので書けないが、家庭でのよき父としての一面を交えつつ非常に魅力的な人物として描いている。
シーズン終盤でより大きな悪と対峙している場面ではハラハラドキドキしながら彼を応援しているはずだ。
日本側に目をやると、レジスタンスを取り締まる憲兵隊の木戸は、捜査方法は残虐だが、一方で自分の信じる使命のためなら命を差し出す覚悟を持っている人物だ。
通商大臣の田上は、平和主義で温厚な人物として描かれる。(彼が易占いに興じる設定は原作からなのだが、P.K.ディックが日本と中国の文化を混同していたのはあの時代では仕方なかったのかもしれない。)
二人とも、好戦的な軍の上層部には好意を抱いていない。
この3人、スミス・木戸・田上は、日本のサラリーマンならとても共感できるのでは無いだろうか。嫌な上司の機嫌を伺いながら、組織と自分の信条の間の板挟みになる役回りなのだ。
一方でアメリカ人によって構成されるレジスタンス側は、必ずしも正義のヒーローとしては描かれていない。必要とあれば仲間でも殺害する無慈悲な集団だ。
つまりこのドラマには、絶対的な悪も絶対的な正義も登場しない。近年のアメリカ映画ではそのような傾向が見られていたが、本作はそれを大胆に推し進めている。
例えば後半に出てくるナチス大物、《あの人物》。アメリカ人にとっては不倶戴天の憎き敵だったはずだが、彼が死んでは困るという状況になり、彼の暗殺を阻止したいという方向に視聴者の思いは向かっていくだろう。
また、ジュリアナやレジスタンスが例のフィルムを見て 「これは私たちの希望だ」 と言う場面は何かに似ていると思わないだろうか?
アメリカの空爆で家族を殺されたイスラム教徒がISISの宣伝動画を見て 「これは私たちの希望だ」 と感化されてテロに加わるのと何が違うだろう?
もちろん、物語は単純に勝者と敗者を入れ替えただけの単純なものではない。もっと複雑だ。そのため、上手に消化し切れていないところもある。しかしそれでも尚、エンターテイメントとしても高い水準にある意欲作だと言えよう。
ちなみに本作には字幕版と吹替版があるが、字幕版は日本人役の日本語がたどたどしいので、それが気になる人は吹替版の方がいいかもしれない。
データ
原作
フィリップ・K・ディック
脚本
フランク・スポトニッツ
出演者
アレクサ・ダヴァロス / ルパート・エヴァンス(英語版) / ルーク・クラインタンク / DJクオールズ
ジョエル・ラ・エ・フエンテ(英語版) / ケイリー=ヒロユキ・タガワ / ルーファス・シーウェル
ブレナン・ブラウン(英語版) / カルム・キース・レニー(英語版) / ベラ・ヒースコート
製作総指揮
リドリー・スコット / フランク・スポトニッツ / クリスティアン・バウタ / イサ・ディック・ハケット
スチュワート・マッキノン / クリストファー・トリカリコ