話題になっているNetflix版のデスノートを観たのでレビュー。
先にお断りしておくが、読む人がデスノート原作を知ってることを前提にこの記事を書くため、軽いネタバレを含むのでご注意を。
はじめに
最初にポジティブなことから書こう。
原作を知らない人や、原作のことを忘れて全く別の作品だと思って観れる人にとっては及第点だろう。
特に大きな欠点も無く、平均以上のホラー・サスペンス映画になっていると言える。
スリリングなシーンもあり、それなりに緊張感を維持して観ることが出来る。
これは原作既読者にも言えるが、少なくとも退屈はしない。
しかし、だ。原作があまりに有名すぎる故、どうしても比較して批評せざるを得なくなる。
頭脳明晰とは程遠いL
まず、主役のライトとL(エル)が、ぜんぜん頭が良さそうに見えない。
おそらく、主人公が頭脳明晰で天才すぎると、アメリカの平均的な知的レベルの視聴者にとって感情移入しにくい存在になってしまうため、敢えてどこにでもいる学生風の人物像にしたのではないだろうか。
原作を思い出して欲しい。序盤で、Lの作戦と推理によってキラの正体が日本に住む大学生だというところまで絞り込まれた時に、我々読者はLの天才ぶりに感嘆し、今後の展開に期待してゾクゾクしなかっただろうか。
ハリウッド版ではそのエピソードがカットされている。あの時のゾクゾク感がまるで無い。
他にも全体を通じてLの推理に天才の片鱗を思わせるようなものが特に無いので、ただの変人捜査官になっている。
これではLじゃない。肌の色は関係ない。アメリカで映画化する以上、キャストが黒人になることは全く問題にならない。
しかし頭が良くないLというのは大問題だ。
信念を持っていないライト
頭脳戦もそうだったが、もう一つ忘れてはならない原作の醍醐味があった。
ライトは自分の正義を信じ、Lも自分の正義を信じていた。
2つの異なる正義と正義がぶつかり合うのが原作の醍醐味の一つでは無かったろうか。
ライトが信じてる正義とは極論すると
「悪人に裁きを下し犯罪の無い世界を作る。そのためになら何をやっても許されるし、俺は神にだってなってみせる。」
というものだ。
一方、Lの信じる正義は
「どんな悪人であろうと法で裁くべきであり、勝手な私刑は許されない。誰も神にはなれない。」
という、我々日本人からすると至極常識的なものだ。
どちらの正義が正しいのか原作の中で作者から明示的に語られることは無く、判断は読者に委ねられていたが、双方(後継者を含む)の末路に作者の考えが込められていたと考えていいだろう。
もっとも、ライトの思想が危険であることは読者の誰もが思っていたことだろうが、それでも彼を応援したくなる危うさが原作の魅力でもあった。
しかしハリウッド版のライトは原作同様の信念を持つことから逃げており、中途半端な人物として描かれている。
悪い犯罪者は原作と同じようにデスノートに名前を書いて殺すものの、全く無実の人を殺すことは躊躇うので、見る人によっては、正義のためにデスノートを使う「いい奴」に見えてしまうかもしれない。
しまいには「2つの悪のうちマシなほうを選ぶしかない時もある」なんて台詞を言っている。
まるで、「これが正義だとは思っていないけれど、仕方ないからやったんだ」とでも言いたげだ。
ライトがそんな弱気な事では駄目なのだ。彼が自分の正義を120%信じて貫いてこそ、Lの側の正義も際立つし、お互いに一歩も譲れないという緊張感が生まれる。読者にどちらの正義が正しいのだろうかと疑問を投げかける事が出来る。
ハリウッド版ライトはその役割から逃げて、冷徹な暗黒面に落ちていく役を恋人のミアに担わせている。
ミアの中にも信念や正義感があるにはあるのだろうが、原作のライトと比べると印象が弱い。そして致命的なことに、どうみても性悪女、良く言ってもチョイ悪ヤン女にしか見えないのだ。
そのため、「元から悪かった女が楽しむために人を殺してる」という印象になってしまい、「正義の信念のために殺している」感が損なわれているので原作ライトの代役になれていない。
なんでこんな事にしたのか不思議だが、もしかするとライト役ナット・ウルフのイメージを「いい奴」のままにしておきたい、ハリウッド的な配慮が働いたのかもしれない。
あるいは、私的制裁を肯定してると受け取られかねないドラマを放映すると模倣犯が出た時にアメリカでは洒落にならないからだろうか。それとも単に、脚本家が何も考えていなかっただけか。
続編が作られるのがほぼ確定したようなので、是非とも次回作ではライトに原作のように冷徹になって(頭脳戦で)大暴れしてくれることを期待したい。本作後半で暗黒面に覚醒した兆しはあったのだから。
ライトが致命的なミスをおかした「微分積分のノート」の件。あれを額面通り受けとるならライトが馬鹿すぎるので、続編では「実はあれは作戦でした」ということになって欲しいものだが。でもシチュエーション的に難しいか。
期待を裏切らなかったリューク
尚、本作は字幕版と日本語吹き替え版の両方があるが、リュークの声役ウィレム・デフォーの演技が素晴らしいので、それだけでも字幕版で観る価値があるだろう。
サム・ライミ版スパイダーマンでグリーン・ゴブリンを演じていた時の不気味な笑い方そのままなので、あれを懐かしく思う人なら特に。
データ
監督:
アダム・ウィンガード
脚本:
チャーリー・パルラパニデス
ヴラス・パルラパニデス
ジェレミー・スレイター(英語版)
原作:
大場つぐみ
小畑健
出演者:
ナット・ウルフ
マーガレット・クアリー
キース・スタンフィールド
ポール・ナカウチ
シェー・ウィガム
ウィレム・デフォー