ブレイキング・バッド(シーズン1〜5)95点

ブレイキング・バッド

あらすじ

主人公は高校で化学を教えている教師、ウォルター・ホワイト。
ブレイキング・バッド | ウォルター・ホワイト

アメリカの教師の待遇は決して恵まれているとは言えない。教師の仕事だけでは家計を支えられず、洗車場のバイトを掛け持ちしている。
ブレイキング・バッド | ウォルター・ホワイト

病院の検査で肺がんが見つかり、残り2年の余命を宣告される。

ブレイキング・バッド | ウォルター・ホワイト

彼には妻と、脳性麻痺を患う高校1年生の息子がいた。

ブレイキング・バッド
(左から 息子のジュニア、妻のスカイラー。)

今のままでは自分の治療費の工面さえ難しい。しかし自分が死んだ後のことを考えると、何としても家族のためにお金を残してあげたい。彼は悩む。
ブレイキング・バッド

そんなある日、DEA(麻薬取締局連邦機関)の捜査官をしている義弟(妻の妹の夫)のハンクに頼んで麻薬捜査の現場を見学させてもらう。

そこで彼は昔の教え子ジェシー・ピンクマンと思いがけず再開する。

ブレイキング・バッド | ウォルター・ホワイト

麻薬の売人をしていたジェシーが捜査現場から逃げるところをウォルターは目撃してしまうのだ。
ブレイキング・バッド | ジェシー・ピンクマン

ウォルターは悩み抜いた末、ある決断をする。麻薬の密造に手を染めるという決断を。家族にお金を残すためだ。
ジェシーと組んで麻薬ビジネスを始める。

ブレイキング・バッド

ブレイキング・バッド | ウォルター・ホワイト

中古のキャンピングカーを購入して移動式の化学ラボに改造し、人里離れた郊外に行って密造する。

ブレイキング・バッド

最初は軽い気持ちで初めた二人だったが、彼が化学の知識を活かして製造した高純度のメタンフェタミン(覚醒剤)は効き目が凄いとたちまち評判になる。

そんな彼らに他の麻薬組織が目を付ける。優れた人材は社会が放っておかないのだ。

彼らを取り込もうとする組織や、敵対する組織に狙われていく。DEAの捜査の手も伸びる。

しかしウォルターとジェシーは超ビビりな上に、戦闘力はほぼゼロ。
凶悪なギャングや殺し屋たちを相手に、ウォルターは化学の知識と頭脳プレーで立ち向かっていくのだった。

ブレイキング・バッド | ハイゼンベルク

抗がん剤の副作用で髪の抜け落ちたウォルター。裏の世界ではハイゼンベルクと名乗り麻薬王へとのし上がっていく。
全ては「家族のため」だ。

 

魅力的な登場人物たち

登場人物がみな魅力的。主人公側も敵側も、みな一癖も二癖もあるキャラばかりなのだが、どこか憎めないのだ。

 

ブレイキング・バッド | ハンク

DEAの捜査官、義弟のハンク。麻薬王ハイゼンベルクの逮捕に執念を燃やす。

ブレイキング・バッド | ハンク

ブレイキング・バッド
(右から ハンク、その妻でありスカイラーの妹のマリー、ウォルターの息子ジュニア)

ブレイキング・バッド

家族ぐるみの付き合いで、とても仲がいい。
ウォルターがハイゼンベルクであることに気がつくのだろうか?

ブレイキング・バッド

ジェシーに近づく少女ジェーン。ジェシーを尻に敷いた彼女は秘密を知ってウォルターを恐喝する。

ブレイキング・バッド | ソウル・グッドマン

ウォルターの顧問弁護士となるソウル・グッドマン。
笑ってしまうほどの悪徳弁護士なのだが、そのお調子者のキャラクターで人気沸騰。
彼を主人公にしたスピンオフ作品が作られたほどだ。

 

敵も肉体派から頭脳派まで個性派ぞろいでキャラが立っている。

ブレイキング・バッド

ウォルター達の最初の取引相手となるトゥコ。凶暴な脳筋マッチョで、一度キレると部下でも殴り殺してしまう。

ブレイキング・バッド | サラマンカ

ヘクター・D・サラマンカは全身麻痺のために話すことはできず、体は人差し指一本しか動かせない爺さんだが、その指一本だけで主人公を窮地に追い込む。
これがまたいいキャラなので憎めないのだ。声を出さずに顔の表情だけで演技している役者も凄い。
中盤シーズンのMVPを選出するとしたら彼かもしれない。
ブレイキング・バッド | サラマンカ

ブレイキング・バッド

表の顔は慈善活動に熱心な地元の名士。裏の顔は麻薬の流通を牛耳るマフィアのボス。しかもウォルター以上に頭が切れる。
敵なのか? 味方なのか?

ブレイキング・バッド | 双子の殺し屋

ウォルターを殺すためにメキシコの麻薬カルテルから差し向けられた双子の殺し屋。

通常、このような敵キャラ設定は一歩間違うと漫画的になってリアリティを損ないかねないのだが、本作では絶妙なバランスでリアリティを維持しながらユニークな敵キャラを描くことに成功している。

 

レビューと感想

麻薬犯罪を扱っているし、暴力的なシーンもそれなりにあるので万人にお勧めできるわけでは無いが、とにかく素晴らしいの一言に尽きるドラマだ。

グダグダになりながら人気が無くなるまで惰性で続けるドラマも少なくない中、本作は人気絶頂時にあえて完結した。そこがまた潔くて素晴らしい。

 

麻薬密造に手を染めた主人公を描いてはいるが、決して麻薬や犯罪を肯定しているドラマでは無い。かといって、説教臭く「麻薬はいけません」と言っているドラマでも無い。そういった善悪や道徳観といったものを超越した次元に物語は突き進んでいく。

ただ、最後まで見終わった後に、あなたはきっとこう思うことだろう。麻薬に関わらずに普通に生きるのが一番だ、と。

 

物語はウォルターが麻薬ビジネスで奮闘する話と、彼の家庭の話が平行して進められる。
ギャングに命を狙われてハラハラしたと思ったら、今度は家族に裏稼業のことがバレそうになってハラハラしないといけない。

客観的に考えると命を狙われることに比べたら家族にバレることはどうってことが無いように思うかもしれないが、脚本が良く出来ているので、むしろ家族にバレそうになった時の方がハラハラして心臓に良くないくらいだ。

例えばあるエピソードでウォルターは敵に拉致されながらも数日後に命からがら逃げ帰ってくる。当然、その間に家では謎の失踪事件として大騒ぎになっており警察も捜索に動いている。間違っても「麻薬組織に拉致されてました」とは言えない。かと言って黙っていては浮気を疑われる。

詳細はネタバレになるので書かないが、彼は大胆でユニークな策で切り抜けようとする。

通常だとこのような展開はお馬鹿なコメディドラマになりやすいのだが、本作はリアルに人物を描きながらも結果としてコメディのような面白さを醸し出すという、高度なことをやってのけている。
登場人物をお馬鹿に描いたら面白くなると勘違いしている日本のドラマとは大違いである。

 

最初は人を殺すことを躊躇するウォルターだったが、「家族のため」と自分に言い聞かせて免罪符にしているうちに、いつしか罪悪感を感じなくなっていく。一方のジェシーは最後まで良心を持ち続けていたが故に心が壊れてしまう。

 

ドラマ史に残りそうな壮絶な最終回、ウォルターは静かに告白する。
今までの行動は「家族のため」では無かったことを。

もちろんそれは、相手への配慮で言ったのだろう。でもまんざら嘘では無いことをラストシーンの彼の満足そうな顔が物語っている。

私はこのシーンで、ハッピーエンドとして喜ぶべきなのか、バッドエンドとして悲しむべきなのかがわからない、不思議な感情に襲われた。喜びも悲しみも全部つまった強烈な感情体験だ。このような体験の出来るドラマはそうそう無い。

もし現実世界にウォルターのような人物がいたら迷惑なことこの上ない。何しろ、彼に関わる者はみな破滅していくのだから。

でもドラマの世界の中くらいなら、そんな彼の生き様に拍手喝采を送ってみるのも悪くないと思う。

ブレイキング・バッド

受賞歴

エミー賞
  • 作品賞(ドラマ部門) (2013、2014)
  • 主演男優賞(ドラマ部門) – ブライアン・クランストン(2008、2009、2010、2014)
  • 助演男優賞(ドラマ部門) – アーロン・ポール(2010、2012、2014)
  • 助演女優賞(ドラマ部門) – アンナ・ガン(2013、2014)
  • シングルカメラ編集賞(ドラマ部門) – リン・ウィリンガム(2008、2009)、ケリー・ディクソン(2013)、スキップ・マクドナルド(2014)
  • 脚本賞 (ドラマ部門) – モイラ・ウォリー=ベケット(2014)
ゴールデングローブ賞
  • 作品賞(テレビ・ドラマ部門)(2014)
  • 主演男優賞(テレビ・ドラマ部門) – ブライアン・クランストン(2014)
サテライト賞
  • 作品賞(2009、2010、2014)
  • 主演男優賞(ドラマ部門) – ブライアン・クランストン(2008、2009、2010、2014)
  • 助演男優賞(ドラマ部門) – アーロン・ポール(2014)
全米映画俳優組合賞
  • 男優賞(ドラマ部門) – ブライアン・クランストン (2013、2014)
  • アンサンブル演技賞(2014)
サターン賞
  • シンジケート・ケーブルテレビシリーズ賞(2010、2011、2012)
  • テレビプレゼンテーション賞(2013、2014)
  • 主演男優賞(テレビ部門) – ブライアン・クランストン(2012、2013)
  • 助演男優賞(テレビ部門) – アーロン・ポール(2010、2012、2014)、ジョナサン・バンクス(2013)
  • ゲスト男優賞(テレビ部門) – ロバート・フォースター(2014)
テレビ批評家協会賞
  • 最優秀テレビ番組賞(2013、2014)
  • 最優秀ドラマシリーズ賞(2011、2012)
  • ドラマシリーズ主演賞 – ブライアン・クランストン(2009)
批評家協会テレビ賞
  • 最優秀ドラマシリーズ賞(2013、2014)
  • 主演男優賞 – ブライアン・クランストン(2012、2013)
  • 助演男優賞 – ジャンカルロ・エスポジート(2012)、アーロン・ポール(2014)
全米監督協会賞
  • ドラマ部門 – ライアン・ジョンソン(2013 – “Fifty-One”)、ヴィンス・ギリガン(2014 – “Ferina”)
全米脚本家協会賞
  • ドラマシリーズ部門(2012、2013、2014)
  • ドラマエピソード部門 – ヴィンス・ギリガン(2009 – “Pilot”、2012 – “Box Cutter”)、ジェニファー・ハッチソン(2014 – “Confessions”)
Rating: 5

投稿者: 松平無道

北の大地で生まれた正体不明のドラマ評論家。

ブレイキング・バッド(シーズン1〜5)95点”に対して1件のコメント

    松平無道

    (2017年9月23日 - 19:30)

    星5つ。

    Rating: 5

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*

※勝手ながら重大なネタバレを含むコメントは私の判断で非承認とさせていただきます。<(_ _)>